ようこそ、労働組合へ

 労働組合に加入するのは初めてですか?もしかしたら組合に敷居が高いと感じていたり、面倒な役割を担わせるのではないかと不安だったりするかもしれません。

 大丈夫、そんな心配入りません。「解雇された」「休暇が取れない」「正社員になりたい」などの問題を抱えていても、一人で悩まず一緒に解決策を見つけていきましょう。そして、あなたの自身のため、みんなのために運動を広げていきましょう。

 

労働組合とは何だろう?

労働者が主人公の組合

 それでは、そもそも「労働組合」とはなんでしょうか。

 ひとことでいえば、「労働者が、自分たちの働く権利を守るために、自発的に作った団体」だと言えます。「労働者」と言うと、いわゆる肉体労働をする人をイメージするかもしれません。しかし、ここでいう「労働者」は、それだけに限りません。新聞記者であろうが、プロのスポーツ選手であろうが、コンビニのアルバイトであろうが、法律上は「労働者」に含まれます。「働く人」ぐらいに大きく考えた方がいいかもしれません。

 

 その労働者が、自分たちにで作る組織が労働組合です。「自分たちで」というというところがポイントです。無理に入らせられたり作らされたりするのではありませんし、国や市町村がつくって税金で運営される公的機関でもありません。

 

 労働者には、法律で様々な権利が認められています。賃金の支払い方法、労働時間の決め方、会社で受ける健康診断など、いろいろな権利が定められていて、それに従わない経営者は罰せられます。しかし、現実には残念ながら、その権利が侵害されることが少なくありません。残業代が支払われなかったり、、過労死するほど長時間働かされたり、会社をいきなりクビにされたり…。そんな問題を実際に自分で経験したり、身近で聞いたりしたことがるのではないでしょうか。

 

 こういった問題を、たとえば「労働基準監督署」などの役所に相談に行ったり裁判所に訴えたりなどと、公的機関を使って解決することも可能です。しかし、その多くは、ある限定的な事件について一度だけ、公的な判断が下されるものです。そして、判断を下すのは労働者自身ではなくその公的機関であり、多少納得いかなくても従わなければなりません。

 

 一方、労働組合は、労働者が主人公になって、自分たちが働くルールを決めていく力を持っています。労働組合として意見がまとまってさえいれば、一人ひとりが納得のいくまで、交渉を続けていくことが可能です。「自分の働き方を自分で決める」----労働組合は、そのための組織です。

組合に入ることは大切な「権利」

 今まで、労働組合に良いイメージを持っていない人がいるかもしれません。「会社のいいなりになって、陰の総務部の様な役目をしている」「困ったことがあって話をしたのに、なにも助けてくれなかった」「権利ばかり主張して仕事をしない人が多い」…。

 しかし、先ほど述べたように、労働組合は労働者が主人公の組織です。悪い組合か良い組合か、役に立つか立たないかは、その組合を構成する一人ひとりの力や関わり方で変わってきます。

 

 そもそも労働組合をつくることは、日本国憲法で「団結権」として認められた重要な権利です。また、労働組合法という法律があって労働者が組合にはいったからと言って会社が不利益を与えてはならない、と定めれらています。一人ではできないことが、組合に入った途端にできるようになる場合もたくさんあります(第3章を参照してください)。つまり、日本の法体系の中では、労働組合に入ることはよいことであり、だれもが組合に入ることが望ましいと考えられているのです。

 

 それはなぜかというと、労働条件(賃金、労働時間、休暇など働く時の条件)は、本来、労働者と経営者が話し合って決めるべきだと考えられているからです。とはいえ、労働条件について話し合うべきといっても、個人で経営者にものを言っても耳を貸してくれないでしょうし、余計なことを言うと会社を首にされたり手当を減らされたりするかもしれません。しかし、労働組合で多くの労働者が一緒になって交渉すれば、話ができます。労働者が経営者と対等に話し合いができるように、労働組合が作られるべきだと位置づけられているのです。

 

 労働組合がどんな働きをするか。どのように労働組合を役立てるか。それは運営の仕方次第です。そして、その運営の仕方を決めるのは、あなたを含めた労働組合の構成員です。

労働組合に入ると何をするの?

組合に入れる人はどんな人?

 働く人は誰でも「労働者」だという話をしました。日々働くことによって賃金を得て生活する人は労働者であり、労働組合に入ったり労働組合を結成したりする権利を持っています。法律で、労働組合に入ってはいけないと決められているのは、会社の経営者や、会社の利益を代弁する立場にある人だけです。 

 

 しかし、組合員を良く見ると、いわゆる労働者ばかりが組合に入っているわけではありません。失業している人もいます。会社を定年になって年金で暮らしている人もいます。こういった人たちは「働いている」わけではありませんが、その人たちも「労働者」と考えて活動するのが労働組合です。

 

 職を失った時には一定期間、失業保険が支払われます。その金額や支給期間も重要な労働条件です。ハローワークに行くなどして仕事を見つければ、失業者はまた労働者になります。また、退職金や年金の額も労働条件のひとつで、賃金から天引きされる年金保険の金額は手取り額にかかわります。それに、自分自身が失業することがあるかもしれませんし、いずれ年をとれば退職します。今はそんな自分を想像しにくくても、そばに当事者がいれば、わが身のこととして考えるきっかけになります。 

 失業者やOBの人たちの希望や生活条件

も視野に入れ、互いに助け合って活動していることが労働組合の強みです。いろいろな立場の人がそれぞれの仕方で参加し、自分自身の要求を実現していくことが、労働組合の幅広い活動につながるのです。

組合員の権利と義務

 さて、「組合に入ったのはいいけれど、何をすればいいの?」と思う人もいるでしょう。

 組合員の義務は、組合費を納入することに尽きると言えるでしょう。その組合費によって、会議室の賃料や、会社と交渉するときの交通費、また切手代や封筒代などがまかなわれます。

 

 そのほか、最低限の定例会議には出席することが望ましいでしょう。たとえば、年に1回「大会」が開かれたりします。会社でいえば株主総会にあたるもので、役員の改選や決算・予算の承認等があり、ここで組合の”新年”が始まります。大会は組合員全員が参加すべきものです。また日ごろの職場の状況や悩み事を報告して相談したり、近くで行われるイベントの照会があったりします。

 

 その他、組合では多くの対策会議、学習会、要請活動、懇親会などが行われています。それらは、興味のあること、出来る範囲のことから参加していけば、それでも構いません。一人ひとりのできることが少しずつ積み重なって集大成されたものが、全体の組合活動になるのです。しかし、せっかくの組合費をもとに運営されているものですから、自分の知識や楽しみを増やすために、積極的に活用していきたいものです。

 

 また、忘れてならないことは、あなたが困ったときに支援したりアドバイスしたりしてくれる人も、同じ組合員であるということです。自分が助けられたら、今度は誰かを助ける番…と互いに助け合っていくことが、労働組合の大前提になっています。あなたの経験は、あなた一人しかもっていない宝です。それをみんなで共有し、後から組合に入ってきた人に伝えることが、その後の活動や問題解決に生かされていきます。

日ごろから心がけておくべきこと

 組合員であるかどうかを問わず、労働者として自分を守るために心がけておいた方がよい事があります。それはひいては、他の組合員に役立つ情報にもなります。

  • 自分の労働時間(出勤・退勤時間)はメモし、また毎月の給与明細は保管しておいてください。後から残業代の不払いを請求したり社会保険に加入していたかどうかを確認したりする場合に必要になります。労働時間のメモは、自分の手帳に毎日付ける程度の簡単なもので構いません。
  •  職場で何か変わった事があればメモしておいてください。会社から労働条件にかかわる通達が出た、上司からいつもとは違うおかしなことを言われた、などちょっとしたことでも、後から役立つことがあります。
  • よくわからないことに署名・捺印しないでください。会社は労働者に不利に条件を押し付ける際、往々にしてあまり説明をせずに、簡単な気持ちで署名・捺印して同意するように仕向けるものです。話がよくわからなかったり、示された文書の内容を読む時間が無かったりしたときには、書類を受け取るだけにとどめてください。
  • 納得がいかないことを要求された時は、その場での返事を保留して、すぐに組合に相談してください。組合内でのこれまでの経験や法律の知識をふまえて、よりよい返事の仕方や拒否の仕方を考えることができます。
  • 会社、他社、業界、社会の情報を集めるように心がけてください。同業の会社同士は互いに連絡を取りあって、労働条件や経営施策を合わせていることが少なくありません。そういう話を組合で共有すれば、他の組合員にも役立つ可能性があります。

労働組合があればできること

まずは団体交渉

 労働組合に入ってあなたは、会社と「団体交渉」を行うことができます。団体交渉は略して「団交」と言って、問題を解決したり労働条件を向上させたりするための基本的な場になります。

 

 今でも会社の経営や上司に希望を言ったり、会社の提案や命令に反対の意思を表した利したことがあるかもしれませんが、一人の労働者では会社に対してどうしても立場が弱く意見が言いにくものですし、話し合いに応じてくれない場合も少なくありません。しかし、労働組合には、会社と団体交渉を持つ権利が法律で守られています。憲法28条には「勤労者の団結する権利、及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」とあり、労働組合法第7条は「使用者(会社)は労働者の代表と団体交渉をすることを正当な理由がなく拒んではならない」としています。つまり組合に入ることによって、あなたが会社に正面から意見や要望を言う場が保障されるのです。

 

 また、労働基準法では「法律で定める労働条件の基準は最低のもであるから、その向上を図るように努めなければならない」とされています。つまり、労働基準法に定められている労働時間や休暇日数などは最低限のものでしかありません。会社はただその法律を守るだけでなく、さらに労働条件を上げることが求められているのです。しかし、労働者がなにも要求しなければ、会社が進んで労働条件を上げようとすることはないと言ってよいでしょう。労働条件向上のためにも、労働組合が行う団交は大きな力を発揮します。

 

 では、団交はどのようにして行うのでしょうか。まず、交渉の内容と希望の日時を会社に伝えます。ふつうは、誤解なく交渉内容や要求事項を伝えるために、項目を文書にして組合名で提出します。会社から返事がきたら、いよいよ団交に臨みます。そのとき、あなたがもし社内でたった一人の組合員だとしても、交渉の場には同じ組合に所属する仲間が出席し、会社と対等の立場であなたと共に意見を述べることができます。

職場に一人でも組合員がいる大切さ

 社内で組合員があなた一人だけだと、会社で浮いてしまったり無力感を味わったりすることがあるかもしれません。しかし、職場に一人でも組合員が存在することは、とても大切です。

 

 あなたが組合を通して個を上げることで、初めて職場の人々が、労働者として当然の権利がないがしろにされていることに気づく場合があります。また、職場で起きている問題を団交などで浮き彫りにすれば、周囲の人に実態を知らせ、問題を共有することができます。そして、会社に対して労働条件や待遇の改善を求めて合意に達すると、その権利を組合員だけでなく職場のすべての労働者に適用させることもできます。また、他の組合組織からの情報を得ることで、他企業と比べて自分たちの条件がどれほど悪いのか、同業種の景気はどうなっているか、社内外で共通に改善しなければならないのはどんなことか、などを、経営者や組合に入っていない人に伝えることもできます。

 

 また、社内に組合員がいるということは、経営者の姿勢を質す勢力が存在するということです。企業にはコンプライアンス(法令順守)や社会的責任を強く求められますが、経営者は利潤拡大のために、あるいは気づかずに、法律をごまかしたり法律から逸脱したりしていることがあります。それがマスコミに報道されて消費者に知られ、急激に業績が悪化し、企業の存続すらできなくなった事件がいくつもありました。社内の行為や風潮について「これはおかしい」とまず気づくことができるのは、現場で働く労働者です。そのとき、一人で声を上げることは容易ではありませんが、組合に入っていれば団交で指揮するなどして会社の姿勢を変えさせ、会社を守る役割も果たせるのです。

職場で組合員を増やそう――"数は力"

 一人の組合員がいることは大切ですが、さらに職場で組合員を増やせば、労働者の権利、労働委組合の力は増します。労働基準法でも、職場の労働者の過半数が入っている労働組合(過半数労働組合)にはさまざまな権利が与えられています。

 

 会社が定める「就業規則」の作成や改定では、過半数労働組合があれば、会社は組合にその就業規則について意見を求めなければなりません。時間外労働や休日労働の賃金割増率等も、過半数組合があれば、その代表と会社が「労使協定」を結ぶことで初めて効力を持ちます。このとき労働組合が無ければ、労働者の側の意見をうまく集めることができず、会社の思うとおりの条件になってしまうことが少なくありません。

 

 また、労働組合は会社と「労働協約」を結ぶことができます。団交の結果合意した内容は労働協約として、就業規則よりも優先して労働条件を決める力を持ちます。職場の過半数に満たない労働組合でも労働協約を結ぶことは可能ですが、会社との交渉では組合員が多ければ有利に話を進めることができます。また、ストライキ(同盟罷業)を行う場合、職場の労働者の多数が組合員であれば業務に大きな影響を及ぼすことができ、交渉の手段として大きな威力を持ちます。

労働組合に認められた権利

 労働者は一人ひとりがいくつもの法律で守られていて、さまざまな権利が認められていますが、労働組合をつくることで新たに生まれる権利も有ります。

 

 労働組合法では、組合員が不利益をこうむらないように、会社が行ってはいけない行為が「不当労働行為」として定められています。①組合員であること、組合に加入したり組合を結成したりしたこと、組合員としての正当な行為を理由に、解雇や不利益な扱いをしてはいけない、②組合からの脱退を条件に採用してはいけない、③団体交渉を正当な理由なく拒んではいけない、④組合を支配、介入したり、組合運営を援助したりしてはいけない、⑤組合員が労働委員会(=労使間の紛争を解決する公的機関)に申し立てたり、労働争議で証拠を示したり発言したりしたことで解雇や不利益な扱いをしてはいけない、などです。

 

 労働組合をつくるには認可の必要もなく、加入できる人の範囲も、経営や人事にかかわる人が認められないことを除けば、自主的に決めることができます。また、ストライキを行うことも、法律で労働組合に認められた大切な権利です。ストライキによって、たとえば製品が納期に間に合わなくなるなど、経営に損害を与えた場合でも、正当な労働組合活動として損害賠償などの責任を負う必要はありません。

社会的な存在として――幅広い視野から

 労働組合は、労働条件や労働者の生活を向上・改善するために活動しますが、会社内の活動だけでは人間らしく生き働く権利は守られません。

 

 短納期、低単価による労働条件悪化など、産業全体の問題では、企業を超えた労働組合で取り組む事が重要になります。また、企業は互いに連携して政府に働きかけ、自分たちにとって都合のよい政治を行わせて、労働者の働く条件を下げてでも利益を上げようとします。大企業が経済の主導権を握っている中で、賃金や労働条件の改善のためには、社会全体で労働者が集まって声を上げていくことが必要です。たとえ会社内で賃金や手当が少し上がったとしても、税金や社会保障の制度が改悪されれば生活はよくなりません。そのとき、労働組合が交渉や行動の主体となり、国や社会に意見を発信するチャンネルの役目を果たします。

 

 1990年代から「労働者派遣法」の改定が続いて派遣労働の条件が緩和され、不安定で低賃金で働く人が急激に増えました。こうした法律を改善させることも、自分たちの労働条件を守るために労働組合が担う役割のひとつです。一方、「男女雇用機会均等法」には、いまだに社会で十分実現されていない内容が含まれています。ますます多くの女性が労働者として働くようになっている現在、男女間の格差をなくす法律に実態が追い付いていなければ、法律に照らして社会を改善していくことも労働組合のつとめです。

 

 「不安定で低賃金の仕事では、結婚して家庭を持つこともできない」「長時間労働で育児休業・介護休暇がとれない」「大学を卒業しても正社員として勤める働き口がない」といった課題も、労働組合にかかわる問題です。これは、世代を超えて社会そのものを存続させていく責任を、労働組合が担っているともいえます。

 

 労働組合は、公的機関の構成員としても不可欠です。都道府県の「最低賃金」を毎年決める「最低賃金審議会」には、公益代表、経営者の代表と並んで、労働組合の代表がメンバーとなります。国連の一機関である「国際労働機関(ILO)」も、政府代表、使用者代表、労働者代表の三者で構成されており、労働者代表は各国の労働組合から選ばれます。労働組合が無ければ、国連の機関も成り立たないのです。