プレスリリース
2024年5月21日
横浜地域労働組合
ココピアワークス(就労継続支援A型事業所)の違法雇止めに対して提訴
横浜地域労組組合員のSさんは、でっち上げの事実を口実に突然就労継続支援サービスの利用を拒否し雇止めを行った株式会社ココピアワークス(就労継続支援A型事業所)に対し、本日横浜地方裁判所に訴訟を提起しました。労働者としての地位確認及びこれまでに失われた賃金と慰謝料の支払いを請求します。
問題が多いと指摘される就労継続支援A型事業所に対して解雇規制を確かなかたちで及ぼすためには、今回のように裁判に訴えざるを得ません。今回判決に至れば、就労継続支援A型事業所の運営にかかわる数少ない裁判例の一つとなります。
就労継続支援A型事業所とは
就労継続支援A型事業所とは、障害者総合支援法に基づき、
障害や難病によって一般就労が困難な人に対して、正式の
雇用契約を結んで就労機会を提供する福祉事業所です。
本裁判の社会的意義
就労継続支援A型事業所は、他の福祉サービスと同様、正当な理由なく利用者に対するサービスを停止することができません。このことは障害者総合支援法に基づく省令及び県条例に明定されています。A型事業所は、利用者に著しい非違行為があるなど例外的事情がない限り、解雇や雇止めをすることができません。
しかし、ココピアワークスは虚構の事実を理由に、Sさんの利用拒否・雇止めを強行しました。これに労働行政は介入できず、県の福祉行政も結局阻止することができませんでした。
Sさんだけでなく、このような不当な利用拒否・解雇等を受けた障害者、またそうした脅威にさらされている障害者は全国に存在するものと思われます。
不当な利用拒否・解雇を禁じる法令が事業者を規律し実効性を持つために、裁判例の存在・蓄積が重要になります。これが一つ目の本裁判の意義です。
とはいえ、不当な利用拒否・解雇等に対して裁判に訴えないと解決がされないというのは、ときに脆弱でもある障害利用者にとって耐え難いほどの負担です。
福祉施設を監査する神奈川県の担当部局は今回の利用拒否・雇止めに関し、事業所を訪問し行政指導をするなど一定の対応をしました。他方、社会福祉法上の苦情解決機関である福祉サービス適正化委員会は及び腰にもみえ、解決の方向には寄与できませんでした。
福祉サービス利用者という弱い立場を考えると、重大な権利侵害に対しては、行政レベルでの救済が実効的に行われることが必要です。本裁判の二つ目の意義は、本裁判を通して、福祉サービス利用者への権利侵害に対し行政が積極的に権限を行使するよう促すことにあります。
不当な利用拒否や行政救済の不足という問題は、就労継続支援A型事業所だけでなく、B型事業所はもとより、広く福祉サービスの利用者に共通するものといえます。
A型事業所の問題に限っていえば、福祉行政だけでなく労働行政側の制度理解も重要です。労働行政では一般的に、純然たる解雇と違って「雇止め」に対しては救済困難という考えが定着しており、雇止めが原則不可能なA型事業所の制度の特質を理解していないものと思われます。労働行政の理解が進めば、縦割りでなく福祉行政と協力して、労働行政がA型事業所で生じる問題の解決に寄与できるでしょう。
就労継続支援A型事業所特有の問題点
就労継続支援A型事業所の収入の多くは、国や自治体からの補助金に拠っています。利用者の労働能力による収益向上よりも補助金収入を頼りにし、補助金を受けられる基準をかろうじて満たす短時間の労働機会のみを利用者に提供している事業者も多いです。
労働時間提供が短くても許される理由は、本来、障害等のある利用者の体調・事情に合わせる必要があるからでしょう。とはいえ、障害者総合支援法には「自立」の理念が掲げてあり、A型事業所に求められるのは、利用者の就労による生活の自立を積極的に援助することです。
したがって、就労能力の高まった利用者に対しては、経済的自立を可能にするだけの労働時間を事業者側が確保すべきです。しかし残念ながら、長時間就労が望ましい利用者にも短時間労働しか提供されないことが多いのです。
この点、過去ココピアワークス鎌倉(ココピアワークスの経営する事業所の一つ)は最長8時間の労働時間を提供していて、これは運営のあり方として評価すべきものでした。しかし、現在では最長の労働時間を強引に一律短縮するなど労働時間を抑制する方向にあり、そうした流れの中で本事件は起きたといえます。
ココピアワークス事件の経緯
Sさんは、これまでうつ病を繰り返し発症し遷延していたことから、医師の勧めで精神障害者手帳を取得していました。そして比較的体調が安定した頃、就労継続支援A型事業所に就職する機会を探していました。その折の昨年2023年2月、ココピアワークス鎌倉に採用され、ウェブライターとして働き始めることになったのです。
しかし当初は体調の不安を持っていました。そのため、4時間の短時間勤務から始めて徐々に時間を増やし8時間勤務を目指す方向性を、採用時に事業所のサービス管理者の方と共有しました。
働くことで心身の状態は良くなっていきました。また、勤怠も問題なく、勤務態度の評価も良いものでした。Sさんも健康改善と就労の機会を与えてくれたココピアワークス鎌倉に感謝していたのです。
3月下旬の有期雇用契約更新(なお、求人票では無期雇用とされていました)の際、4時間の労働時間を維持するよう求められ、Sさんは、しばらくは健康に慎重を期すためもあり同意しました。
ところが、4ヶ月が経とうとする5月末、病欠していたサービス管理者に代わって職業指導員Aさんが更新の面談を行い、今回もまた労働時間を据え置く意向を伝えられます。生産性がまだ上がっていないという趣旨の理由でした。
しかし、Sさんにとってこの時点ではかなり心身が回復していました。さらなる健康向上のため、また経済的に自立した生活のために、より多く働くことが望ましい状況だったのです。仕事を覚えるためにも、もっと仕事をすることが大切だと考えていました。にもかかわらず、まだ入社して間もない時点の生産性で労働時間が左右されようとすることに、Sさんはそのとき不信感を持たざるを得ませんでした。
Sさんは良好な健康状態と厳しい経済事情を述べ、労働時間の延長を求めました。結果として合意されたのは、当面の5時間勤務です。Sさんは、不信感は抱いていたものの、要望を述べる際には言葉を選び、丁寧に自分の考えを伝えました。
ところが、後から判ったことですが、当日なぜか職業指導員Aさんは代表取締役に対し、Sさんにぶつかられ暴言まがいの言葉を浴びせられて、心が傷ついてしまったなどと、全く不可解な報告をしていたのです。
その1ヶ月半後の7月15日金曜日、何の前触れもなく退勤後に突然、「今後の(会社との)やり取りは弁護士の方を通じてお願いいたします」というチャットメッセージが代表取締役からSさんに届きました。翌日弁護士から電話があり、同月末での福祉利用契約の解除と雇止めを言い渡されます(後に撤回されましたが、月曜日からの出勤停止も通告されました)。
その後届いた書面には、Sさんが労働時間延長を「強要」して「暴言を吐く」「怒鳴る」などしたという非違行為が理由として記載されていました。
そのような事実は一つとしてありません。また、事業所はSさんと話して非違行為の事実を確認するなどの手続きを一切取っていません。
でっち上げの事実を理由とした利用契約解除と雇止めは無効というほかありません。
雇止め通告の後の相談により、神奈川県福祉こどもみらい局の担当者が職場に赴いて対応し、事業所の落ち度につき口頭で行政指導がなされました。
なお、苦情解決機関である神奈川県社会福祉協議会福祉サービス運営適正化委員会は、弁護士が登場する場面では対応できないとのことでした。
強引な雇止め後の8月初旬、Sさんは横浜地域労働組合に加入し、その後4回の団体交渉がなされます。団体交渉の努力の結果、ココピアワークスは「暴言」「怒鳴る」などの主要な事実が存在しなかったことを認めました。
横浜地域労組はSさんを仲間として支援し、団体交渉は功を奏しました。
しかし、利用契約解除と雇止めに関する根拠事実の不存在を認めながら、ココピアワークスはこれらを撤回せず、いまなお解除・雇止めが有効であると強弁しています。